豊胸はかつて、男性側の一方的な願望でした。つまり、大きなバストに憧れるという現象は、本来男性側の要求であったわけです。心理学的・社会学的に、あるいは歴史的に様々な考察がなされてきましたが、要するに女性美の象徴としてバストに注目が集まっていたという長い歴史があるわけです。むろんそこには生命の象徴、種族繁栄に対する願いなど様々なものがあったでしょうが、基本的に女性の美をバストの「大きさ」に求めた長い歴史があって、そこに豊胸という技術開発への布石があったということでしょう。
豊胸より以前の歴史としては、メークや服飾によってバストを際立たせ、一種のめくらまし的にバストを輝かせるというアプローチが長く続いていました。「寄せて上げる」という補正下着・補正ファッションによるバストの強調というものは、実に長い歴史を有します。これもまた、一種の豊胸であると言うことも出来るでしょう。もちろんこれらはあくまで一過性のものであって、衣装を取り去ってしまえばそれまでという、虚しい努力に過ぎないわけです。
豊胸への欲求を男性社会の象徴と見る時代も確かにありました。しかし現在では、そうした男性の視線を意識から切り離し、あくまで女性側のナルシシズムを満足させる手段として豊胸を捉えなおす動きが顕著になっているように思えます。さらに言えば、女性が自己を高める手段として、様々なスキルアップの最終到達地点に、豊胸という選択肢を書き加えたのだという見方もあるわけです。それこそが近年の、女性側の視点に立った様々な美容術の開花であり、服飾デザインの進化であり、豊胸を代表とする美容整形外科の見直しというムーブメントに繋がっているのでしょう。
豊胸にたいする社会の意識、特に女性側の意識の変革に伴って、まさにグッドタイミングで、美容外科における豊胸の技術革新が急成長と呼んでいいほどに高まってきたのは近年のことです。それまでの、とにかく大きくすればオーケーという、一部海外美容外科における豊胸の概念とは全く異なる、あくまでも美しい豊胸という流れが確立されています。さらに、その仕上がりの自然さや、触れたときの柔らかさについても「本物」の豊胸へのニーズが高まっていたのです。それを実現してしまったのが現代美容外科なのです。
豊胸はですから、何よりそのバストの持ち主本人が充分満足できる自然な柔らかさと、身体全体のプロポーションを高めてくれるバランスが重視されるようになってきています。これは、実際に現場で豊胸の治療にあたる日本人美容外科ドクターたちのたゆまぬ研鑚努力を抜きに語ることはできないでしょう。そうした下地が整った現在、豊胸とは女性が自己を磨く過程で、選択肢に加える確かな価値を内包するに至ったというわけです。